本文の始まりです
旦過市場の誘惑
昼ごろの旦過市場は買い物客でにぎわっている。今週の献立を考えるお母さんやおばあちゃま、飲食店のシェフたちが新鮮な魚や野菜を真剣に選んでいるのを見ると自分も真似をしてどれが美味しい食材なのかを探し出す。しかし鍛えられていないこの素人の目では果たしてどれが美味しい食材のかなんてさっぱり見当がつかない。というより、どれも美味しそうに見えてしまうのである。ぼくはどちらかというと料理を作るよりも食べる方が好きなのでそっちのほうは誰かに任せるとしよう。
さて、食べること専門は食材探しの真似っこを早々に引き上げお昼ご飯前のちょこっとつまみ食い。以前も紹介したおなじみ「小倉かまぼこ」さんの「カナッペ」を頬張る。旦過市場のメイン通りから少し横っちょに入ると製造工場つきの店舗があるのだが、ここで食べる揚げたてのカナッペは唸るほどのあじだ。サクッとした衣の中にはピリッと辛さのある魚のすり身が詰まっている。これ一つでご飯が2杯はぺろっといってしまうだろう。もしあなたが酒飲みにだとすると缶ビール3本は空けてしまうことになるかもしれない。
続いて向かうは「大學堂」さん。何の気なしに入店することなかれ。このお店の方のスマイルはベラボーに高い。ゆんたく(調べてみたら“おしゃべり”の意味だった)に関しては時価ときたもんだ。ここで世間話でもしようもんならいったい幾ら請求させるかわからない。昭和の香りを残す佇まいで、どこか懐かしさを感じざるを得ないこのお店は、そんな日本人の心を逆手に取るような商売を仕掛けている。おしゃべり好きでついつい長話をしてしまう方やお財布の中身が寂しい方、一人で入るときはくれぐれも気をつけたほうがよさそうだ。
スタッフさんとの会話を楽しんだが必死の説得の末に無事高額な請求を免れ、次に目指すは「旦過うどん」さん。ここ小倉ではうどん屋さんに当たり前のようにおでんが並んでいる。旦過うどんさんではまずここで足止めをくらってしまいなかなか店内に入れない。美味しそうなおでんを目の前にするとどうしても欲張りになってしまう。
しかしここはぐっとこらえて名物のちゃんぽんを注文することに。何せここのちゃんぽんは麺が見えないほどにお野菜がてんこ盛りになっている。このちゃんぽんをしっかりとあじわえるだけのスペースをお腹に空けておく必要があったのだ。
それにしても、何度食べてもここのちゃんぽんには飽きがこない。お店のあじだけれどもどこか懐かしい田舎のおばあちゃんのあじにも感じられる。
あじもそうなのだが、ぼくはそれと同じくらいお店の雰囲気も大好きだ。お店のおばちゃんやその場にいるお客さんとの距離感が心地よい近さにあって自然と会話がうまれることも楽しみの一つなのだ。また、若い人を見るとお節介を焼かずにはいられないおじちゃんおばちゃんとが一緒に居合わせるとなんとも言えない風景になる。若い人や外から来た人たちをお世話しよう、もてなそうとちょこっとだけ力んだその姿を見ると心があたたまる。
そんな北九州、小倉らしい日常の一コマが誰かの非日常につながってくれると嬉しい気持ちになる。